漫画:ワイルド7
今度は打って変わって古い漫画。
「貴様ら悪党を退治する」「退治?逮捕の間違いじゃないか?」
ズドン!
今回ご紹介する漫画は「ワイルド7(セブン)」。法の網を抜ける卑劣な悪党どもを裁判なしに直ちに処刑する法治国家の枠を超越した7人のならず者による超法規的武装白バイ集団ワイルド7の戦いを描いた70年代の作品だ。作者はアクションコミックの巨匠、望月三起也(もちづきみきや)氏。近年、悪党どもを問答無用で誅殺する世直し漫画(アカメが斬る!、トリアージXなど)がいくつかアニメ化するなどとにわかに流行っているが、この漫画はその元祖とも言える、
バイオレンス・アクションコミックの金字塔的作品だ。
- 悪党は殺す。
恐らく既にお気付きだろうが、冒頭の一文が示すようにワイルド7は人が死にまくるそれも情け容赦なく死ぬハードかつシリアスな作風が特徴的な漫画だ。
ワイルド7の主要メンバーは隊長格である主人公の飛葉(ひば)と、人間離れの怪力を誇るヘボピー、爆薬のプロ両国(りょうごく)、元ヤクザの大親分であるオヤブン、元八百長野球選手である八百(はっぴゃく)などと一筋縄ではない前科を持つ7人の無法者によって構成されている。
なお、全員が警視正級の階級を持つ警察組織に所属する者である。いいのか?
敵を殺しまくる一方で、ワイルド7のメンバーも時折殺される展開があり、その都度欠員は補充され新メンバーが加わる。エクスペンダブルズ
ワイルド7を創った上司である草波(くさなみ)は彼らを代わりが効く使い捨て人員と冷たく扱い、時には彼らを見捨てるような非情な判断を下すなど、この物語全編を通して気の許せない存在として描かれている。ある意味この人が一番クレイジー。
このようにワイルド7の特殊な存在理由や、手強く非道な悪党どもと死闘を繰り広げ、悪人が命乞いをしようとも有無を言わさず撃ち殺し、敵の罠に嵌ったワイルド7の仲間があっけなく散る展開はこの漫画の象徴であり、同時に最大の魅力となっている。
- 何を言おうとも殺す。
- 自分が死にそうになっていても殺す。
また、漫画的技法の特徴として、セリフにあまり頼らない非常に映画的な状況説明によるアクションが挙げられる。
- 対戦車ライフルで長距離狙撃を行うシーン。
- 砲弾を載せたソリをバイクで引きずり、急ブレーキすると同時に銃で砲弾を固定する縄を撃ちほどいて慣性の法則で砲弾を戦車にそのまま突っ込ませる無茶苦茶なシーン。
俯瞰など引きの構図の多用による敵との距離や周囲の条件の明示をする一方で、登場人物たちの心情説明(モノローグなど)を極力省くことにより、スピード感がありながら分かりやすいダイナミックな展開を見せることができるのである。
「てか映画的技法を取り入れることで漫画の表現は進化して行ったのだからそんなの当たり前じゃん?」と思う人も当然いると思うが、望月三起也先生の漫画は特にその傾向が顕著だといえる。
望月先生独特のこの映画的漫画技法は、セリフによる丁寧な説明を重視し過ぎている最近の漫画に馴染んでいる人にも、きっと新鮮な刺激を与えるだろう。
漫画全体の構成も各事件ごとに編仕立てで区分けされていて、話が冗長になったり、展開が間延びしたりしないようになっている。
とはいえ後半になっていくと連載の長期化によるものなのか、だんだんと長い編の割合が多くなっていくのだが。
ちなみに自分が好きな編は
- コンクリート・ゲリラ
- 黄金の新幹線
- 地獄の神話
- 運命の七星
あたりでしょうか。順は連載順。
2011年に映画化されてるけど観てないし評価も散々なので特に触れません
主人公が戦いに悩む漫画に飽きた人……
悪人を許す綺麗事にうんざりする人……
日本の司法制度に疑問を感じている方……
痛快無比なガンアクション漫画が読みたい人……
そんな今の漫画もしくは社会そのものに物足りなさを感じている人に是非読んでほしい。
2016/4/3追記
この記事を書いてから一ヶ月ほど経った4月3日に、作者の望月三起也先生が肺腺がんにより亡くなりました。享年77歳。
つい先月の3月17日より池袋の東武で催されていた画業55周年記念の作品展で余命半年を告白してから一ヶ月足らずで逝去されました。
死ぬ前に『俺の新撰組』の完結を描き切ると言われていたのにあまりにもあっという間の出来事でした。
心より御冥福をお祈りします。
作品展、行けばよかったなあ…